綿矢りさ「勝手にふるえてろ」(文藝春秋)

いつのまにか、綿矢りささんの新刊が出ていました。
もちろん即購入。そして即読了。

いつからだろう、さらなる飛躍という言葉が階段を駆けのぼるイメージではなくなり、遠くで輝くものを飛び上がってつかみ取り、すぐに飽きてまるきり価値のないものとして暗い足元へ放る、そしてまた遠くへ向かって手を伸ばす、そのくり返しのイメージに変わってきたのは。

がむしゃらにがんばってきてふと後ろをふり返ったとしても、やりとげた瞬間からそれは過去になるんだから、ずいぶん後から自分の実績をながめ直してにやにやしても、まあ、そんなでしょ、べつにたいして幸せじゃないでしょ。逆にちょっとむなしいくらい。


こんな刺激的なフレーズが並ぶ冒頭のモノローグはひたすら圧巻。
その後の本編も、大きな事件や出来事が起こるわけではないのですが、
主人公の心の揺らぎに、読んでいるこちらまで気持ちが不安定に…。
読後感も、「…結局、何だったんだ?」と、なんともいえない感じ。


ということで、今のところ、わたしは、この作品について、良い/悪いという
単純な評価を下すことができません。
彼女はこれからどこへ向かおうとしているのか。
これは、進化なのか、それとも。
ただ、なんとなくではありますが、少なくともわたし自身は、今の彼女のスピードに
着いて行けていないのだろう、という感覚があります。


前作「夢を与える」も然り、最初の二作と明らかに違うのが、作品全体に漂う“狂気”。
この狂気を、今後彼女がどのように扱い、どのような作品を創り上げるのか。
大いに期待しつつ、気長に、次の作品を待とうと思います。


勝手にふるえてろ

勝手にふるえてろ